野犬
鉄の掟
「鉄の掟を破ったからには、もう生かしておくわけには、いかねえな」
「すまない。金ならいくらでも出す。だから命だけは助けてくれないか」
「お前の、はした金でどうにかなる問題じゃない」
「ニンテンドースイッチをソフト付であげるから」
「次からは気をつけろよ」
旅館
△「えっ、予約していた部屋ないの?」
▲「申し訳ございません。もう一つお部屋はございますので、そちらならすぐご用意できますが」
△「なんだあるじゃんか。そこでいいよ」
▲「部屋で起こったことは決して公言されないということと、夜は部屋の鏡を覗き込まないよう
お約束いただければご案内いたします」
△「ふざけんな。そんな部屋泊まれるか」
▲「別館であればご案内できますが」
△「ほう、そこ案内しろよ」
▲「ではこれからお隣の山田様に泊めてもらえるか掛け合ってみますので」
△「そこは民家じゃねえか。何が別館だ。とにかくここに泊まれるようにしろよ」
▲「予約システムでトラブルがありまして、お客様の情報が登録されておりませんでした」
△「部屋が六つしかないのに予約システムもないだろ。ノートに書き込んでるだけじゃねえか」」
▲「システムの書き込み処理でトラブルが発生しておりまして」
△「ボールペンのインクが切れただけじゃねえか」
異物混入
「本日は食品の偽装および混入発覚ということで、各社報道を招いての緊急会見となりましたが、詳細を教えていただけないでしょうか」
「はい、お客様から大変なご好評をいただいております、当社の冷凍食品『かにクリームコロッケ』についてでございます。お客様からのご指摘に基づいて調査したところ、通常の製品よりかにが20%の増量されておりました。さらにクリームの原料を畜産農家との直接交渉により乳脂肪分4.0%以上の基準をクリアした厳選された生乳のみ使用されておりました」
「混入による健康への被害はないのでしょうか」
「ありません。召し上がってしまったお客様からは『かにの食感がいつも以上にある』、『冷凍食品とは思えないほどのクリーミーさ』というご指摘がありました」
「自主回収はされるのでしょうか」
「保健局と協議した結果、回収には至らず、保健局の方にも『品質には問題なし。個人的な意見だが、非常に美味しい』というお褒めの言葉をいただき、今回の出荷分についてはそのままということになりました。全国の有名スーパー、大手コンビニエンスストア各店でお買い求めいただけます」
「最後に一言ありますでしょうか」
「このたびはご迷惑をおかけし大変申し訳ありません!」
「ただの宣伝じゃねえか」
オヤジ狩り
「ちょっとおじさん、こんな若い子とホテルから楽しそうに出てきたけど、こういうのいけないんじゃないの?」
「なんだね君たちは。やめなさい」
「おっと、もう写真には撮っちゃいましたよ。これを会社に見られたらまずいんじゃないの?」
「すまない。どうか穏便にしてくれ……要求はなんだね」
「もみじ持ってるだろ?」
「もみじ?」
「かばんの中にあるだろう。いまおじさんが本の栞にしてるやつだよ」
「これをどうしようというんだ」
「もみじをくれたら、この写真が収まったSDカードを渡してもいいぜ」
「……これならくれてやる」
「ずいぶん素直じゃねえか。約束どおりこれは渡すぜ。よしお前らずらかるぞ!」
「あいつら、もみじ狩りを履き違えてるだろ」
板前
「ねえ、アジ握ってくれる?」
「すみません。今アジないんですよ。旬が過ぎちゃいましてねえ」
「そうなんだ。じゃあさ、代わりに今のおすすめちょうだい」
「はい、えんがわお待ち!」
「あっ、お茶なくなっちゃった。お代わりちょうだい」
「すみません。今お茶ないんですよ。旬が過ぎちゃって」
「おかしいだろ、さっきお茶出してただろ」
「今日の午後5時から8時までが旬でしてねえ」
「旬のスパン短すぎるわ。じゃあ代わりのでいいからちょうだいよ」
「はい、キャラメルマキアートお待ち!」
「仮に旬でもあわねえよ! お茶出せよ」
「お茶は旬が過ぎちゃいましてねえ」
「お前は話にならねえよ。他の板前呼んでくれよ」
「すみません。板前はもういないんですよ。板前は旬が過ぎちゃいましてねえ」
「おかしいだろ。板前が旬を過ぎてるならお前はなんなんだよ」
「バリスタです」