クローン
不二雄の父は科学者であったが、ある夏の日いつものように研究所へ出勤したきり忽然と姿を消した。
警察は大がかりな捜索をしたが、父の情報は一向に入ってくる様子はなかった。国の重要なプロジェクトを任されている父の失踪は息子の不二雄だけでなく国家にとっても大きな痛手であった。
そこで父のクローンを作り、この損失を埋めることにした。元々不二雄の父はこの研究の第一人者であり、クローン作成の元となるDNAやそれまでの記憶情報は全て研究所にバックアップされていたのだ。
クローン作成は無事成功し、クローンの父が誕生した。クローンの父は以前と同じように昼は研究所の科学者として働き、夜は不二雄の父として生活を営むようになった。
しかし、ある日から事態は急変した。行方不明だったオリジナルの父が生きて帰ってきたのだ。オリジナルの父の技術に目をつけた地下組織が父を幽閉し、独自の研究に当たらせていたのだった。
警察の長年の地道な捜査が功を奏し、父の解放に結びついたのだ。
しばらくぶりに家に帰ったオリジナルの父は、不二雄ともう一人の自分がいることに驚いた。
「君は誰だ」
「私は不二雄の父だ。君こそ誰だ」
「決まってるだろ、不二雄の父だ。クローンはすぐに出て行きなさい」
こうしてオリジナルの父とクローンの父との間で、不二雄に対する親権争いが始まった。DNA鑑定ではオリジナルもクローンも全く同じため、優劣をつけることができない。
また、クローンに対する差別をなくすため、オリジナルかクローンかという点で判断することもできない。こうして裁判は難航し、最高裁まで持ち越されることになった。
裁判が始まってから5年、ついに最高裁の判決が言い渡された。
「主文、不二雄の父はオリジナル、クローン共に同等の親権を持つものと判断する。よって、不二雄のクローンを作成し、オリジナル、クローンの父はおのおのの親権を持つものとする」
こうして、不二雄のクローンを作成し、オリジナルの父とクローンの父の元で二人の不二雄が暮らすようになった。
これが、藤子不二雄が藤子不二雄Aと藤子・F・不二雄の二人に別れた真相である。