クエの鳴く夜は恐ろしい

爆笑問題カーボーイ向けに投稿したショートショートショートを公開します

家族割

「家族割はいかがですか」
 見知らぬセールスレディが孝夫の家を訪問したのは、ひと月前だった。
「携帯料金ならもう既に入ってるけど。何の家族割のこと?」
「携帯料金は勿論、電気代、水道、ガスなどのインフラからインターネット、新聞、何でも適用されます。孝夫様のご家族は4名ですので、4名様で入れば最大50パーセント引かれます」
 孝夫は最初半信半疑で聞いていたが、どこか妖艶な女性の口調とサービスの内容から話にどんどん引き込まれていき、その日のうちに契約の話にまでなっていた。
「ではこちらの契約書の内容をよくご確認の上、サインをお願いします」
 孝夫は契約書の内容をざっと見たが、契約内容が細かすぎて読む気になれない。適当にざっと見て、そのままサインした。
「ありがとうございます。家族割は翌月から適用されます」
 そう言って女性は孝夫の家から離れた。
 それから一ヶ月が経った今日、公共料金の請求が一斉に来た。電気代も水道代もガス代も言われたとおりいつもの月の半額になっている。そして明細には家族割適用とか書かれてある。
「すごい。本当に家族割は適用されたんだ」
 孝夫はそう思い、会社に向かった。いつものように仕事をこなし家に帰ると、まだ二人の子供がいない。不審に思った孝夫は妻に尋ねた。
「なあ、子供達はまだ帰ってないのか?」
 妻は怪訝そうな顔をして言った。
「何言ってるのよ。私たち最初から二人家族じゃない」