クエの鳴く夜は恐ろしい

爆笑問題カーボーイ向けに投稿したショートショートショートを公開します

再会

 孝夫は別れた父親によく似た老人と偶然出会った。身なりは小汚く、目も虚ろだが孝夫の目に間違いはなかった。
「杉田敏夫さん、ですか」
 男は目を背けた。
「いいえ、誰か人違いじゃないでしょうか」
「覚えていますか、杉田孝夫です。25年前に別れた、あなたの息子の杉田孝夫です」
「……人違い、ですよ。私は忙しいので、この辺で」
 男は声を発するのが精一杯だった。そそくさとこの場を離れようとする男を孝夫は止めた。
「待ってください!」
「私には、あなた様のような立派な息子を持った覚えはありません。それに--」
 男は声を詰まらせた。
「仮に私があなたの父親だったとして、今更こんなみすぼらしい姿を見せたくありませんよ」
 孝夫ははっとした。今まで音信不通だった理由が分かった気がした。
「わかりました。ではもし、あなたが私の父、杉田敏夫に出会うことがありましたら、こう伝えてくれませんか」
「--なんでしょう」
「私は今、かつての父と同じように会社を経営し、家族もいます。そして分かったんです。あのときなぜ父は私達の元から離れたのか。父は決して私たちを見捨てた訳じゃなかった!」
 男は首を落とし聞いていた。肩が小刻みに震えていた。
「--必ず、伝えます」
 男はそう応えると、孝夫の後ろから「おーい!」という大きな声が聞こえてきた。振り向くと、若い女性を連れた男が孝夫の元に向かってきた。見るからに羽振りがよさそうだ。
「おおー孝夫じゃない! 25年ぶりだなあ!元気してた? オレだよ。お前の父親の敏夫だよ。何してんのこんなとこで? え、この方お連れさん?なんで泣いちゃってんの? なんかやらかした? あ、25年前に会社やらかしたのオレのほうか! ガハハハハ!」
 孝夫が話していた老人は父親とは全くの別人だった。