クエの鳴く夜は恐ろしい

爆笑問題カーボーイ向けに投稿したショートショートショートを公開します

2017-09-30から1日間の記事一覧

振り込め詐欺

電話:プルルルル母「はいもしもし」詐欺師「あ、母さん。信次だけど。取引先とのトラブルで300万円が今すぐ必要なんだ。お金をぼくの口座に振り込んで」母「まあ、なんてことを。今すぐ送るわ。」数分後母「電子振り込みで300万送ったわよ。セキュリティ上…

昌子さんメシはまだかいの

祖父「昌子さんメシはまだかいの」嫁「やだおじいちゃんご飯はさっき食べたでしょ」祖父「そうだったかのう」娘「ちょっと待ってお母さん、おじいちゃんどころか私たち今朝から何も食べてないじゃない。おじいちゃんは濡れ衣よ」息子「何言ってるんだ姉さん…

引きこもりの息子

カウンセラー「息子さんが部屋に引きこもるようになってから何年になりますか」母「高2からですからもう10年になります。息子の将来が心配で心配で……」カウンセラー「高校はそのまま中退されたんですね」母「はい。通信制の高校に転入後、通信制の大学へ進学…

ピアノ発表会

今年五歳になる麻衣は母に泣きながら訊いた。「なんでパパはピアノ発表会に来れないの?」「パパのお仕事が忙しくて行かれなくなっちゃったのよ」「やだやだ。絶対パパに来てもらうんだもん!」 そばで訊いていた孝夫は麻衣に語りかけた。「麻衣ごめんな。パ…

伴侶の葬儀

孝夫は自宅の縁側に座り、今日の葬儀の事を思い返していた。「君らしくてあったかい、いい葬式だったよ」 定年退職後、夫婦二人でやっとゆっくり出来ると思った矢先の出来事だった。愛する伴侶が突然の病に侵され、そのまま他界してしまったのだ。妻と離れば…

形見

孝夫の父は言葉の少ない、昔かたぎの男だった。仕立てた背広をパリッと着こなし、靴は三種のクリームを使い分けて手入れしていた。この日、孝夫は付き合っている彼女を紹介しに実家に戻ってきた。当然、将来の結婚を見据えての挨拶だった。「理恵さん、孝夫…

再会

孝夫は別れた父親によく似た老人と偶然出会った。身なりは小汚く、目も虚ろだが孝夫の目に間違いはなかった。「杉田敏夫さん、ですか」 男は目を背けた。「いいえ、誰か人違いじゃないでしょうか」「覚えていますか、杉田孝夫です。25年前に別れた、あなたの…

母のカレーライス

「春子、新しいお母さんだよ。ほら、挨拶しなさい」 郁美は腰をかがめて春子に挨拶した。「春子ちゃん、始めまして。仲良く一緒に暮らしましょうね」 郁美のさしのべた手に春子は応じなかった。「私のお母さんはもういないもん」 そう言い残すと春子は自室に…

青の洞門

昔、諸国巡礼の旅途中であった一人の和尚が、渓谷にたどり着いた。その渓谷は険しく、鎖渡(くさりわたし)では毎年幾人かの村人や馬が命を落としているという。ここに洞門と呼ばれるトンネルがあればその命も救われるが、山の岩盤は堅く、距離も1町と長い。洞…