クエの鳴く夜は恐ろしい

爆笑問題カーボーイ向けに投稿したショートショートショートを公開します

紅葉狩り

男「やっぱり秋の山は綺麗だねえ」
女「ほんと、紅葉(こうよう)が美しいわ」
通りすがり「ひいいい!!助けてくれー!」
男「どうしました。血相を変えて」
通りすがり「で、出たんです。あいつが!」
男「なんですかあいつって」
通りすがり「もみじ狩り、です……」
男「ちょっと、しっかりしてください。なんですかもみじ狩りって」
紅葉狩り「もみじはねえかあ! もみじ持ってる奴はいねえかあ!」
女「キャー!」
紅葉狩り「おっと、これはいいもみじじゃねえか。貰っていくぜ」
男「なにをするんだ! そのもみじを返しなさい」
紅葉狩り「うるせえ!」
男「グホッ! ううっ」
紅葉狩り「お前はもみじを持ってないのか」
男「うぅ、持ってない」
紅葉狩り「じゃあそこでジャンプしてみろ……おい、シャカシャカ言ってるじゃないか!」
男「しかしこれは先ほど採って来た……」
紅葉狩り「うるせえ! これは貰っていくぜ。もみじはねえかあ! もみじ持ってる奴はいねえかあ!」

スシバーガー

客 「おっ、ここの店、こないだまで寿司屋だったのにハンバーガー屋になってるぞ。なになに『スシバーガー』だと。入ってみよう」
店員「いらっしゃいませ。スシバーガーへようこそ」
客 「前にあった寿司屋の店員じゃねえか。このスシバーガーって気になったんだけど。お勧めとかある?」
店員「今ですと、フレッシュ ツナバーガーがお勧めです」
客 「どんなの」
店員「バンズの代わりにお酢を混ぜたライスを敷きまして、その上にツナの刺身を載せたものになります」
客 「寿司だねそれは。完全に寿司だ。ハンバーガー屋らしいものないの。熱を通したようなのとか」
店員「ホットツナバーガーはいかがでしょうか。軽く焼いたライスのバンズに、ソテーしたツナとアボカドソースが添えられております」
客 「そういうのだよ。それちょうだい」
店員「セットでお飲み物はいかがですか」
客 「コーラとかないの」
店員「コーラはございませんが、すごく暖かい緑茶と、暖かい緑茶と、ぬるい緑茶からお選びいただけます」
客 「最初から緑茶しかないって言えよ。何見栄を張ってるんだ。暖かい緑茶にしてくれ」
店員「サイドメニューはいかがですか。お勧めはピクルスですが」
客 「おっ、いいね。ニンジンのピクルスあるの?」
店員「甘酢で和えた薄切りジンジャーのピクルスのみ取り扱っております」
客 「ようはガリじゃねえか。サービスでつかないのかよ。じゃあジンジャーのピクルスもつけて」
店員「ガリ追加ですね」
客 「ガリって言っちゃってるじゃねえか。それでお会計して」
店員「お会計800円になります」
客 「じゃあこれで、1000円ね」
店員「おつり200円になります。あとこちらは開店記念のプレゼントのマグカップです」
客 「そう言ってまた寿司屋の湯飲みとかじゃないの……あ、ホントにマグカップだ」
店員「ハンバーガーによく合う、特製マグカップでございます」
客 「でもよくデザインを見たけど、何これ」
店員「なんでしょう」
客 「ハンバーガー屋を名乗るなら、魚の名前をこんなに入れるなよ!」

ケータイショップ

店員「次のお客様どうぞ」
客「今のスマホ古くなっちゃったから買い換えたいんだけど」
店員「お買い替えですね。お客様のご契約ですと、いろいろなスマホをお安くお求めいただけますよ。話題のスマホもありますよ」
客「おっ、それってアレでしょ。リンゴのマークのやつ」
店員「いえ、使っているとバッテリー部分が膨らむと話題のスマホです」
客「そんなんいらねえよ。話題じゃなくていいからちゃんとしたのくれ」
店員「ではこちらでいかがでしょう」
客「おお、これはいいじゃん。でも高いんじゃないの? おれお金がないんだ。分割みたいのできないの」」
店員「分割もできますが、おすすめではありません」
客「そりゃ一括で払ったほうが得なのかもしれないけど」
店員「いえ、スマホの部品が分割で届けられるので、全部組み立ててからでないと使えないのです」
客「そんなの意味ないだろ。じゃあこの安いやつでいいよ」
店員「こちらのスマホですとお子様見守りサービスが付けられます」
客「見守りサービスって子供の居場所を教えてくれるやつだろ、俺は子供じゃないからいらないよ」
店員「いえ、子供数名で常にスマホを見守るサービスです」
客「ますますいらねえわ。何の意味があるんだ」
店員「かしこまりました。ほかにオプションはいかがなさいますか。今なら留守電サービスがお得になっております」
客「うーん、着信が分かればいいから、あんまり留守電サービスは使わなそうなんだよな」
店員「あっ、そっちのほうじゃないんです。お客様が家を不在になされたときに、電話がお留守番をしてくれるサービスです」
客「そんなわけねえだろ。電話が『はい、ご苦労様でしたー』なんて荷物受け取りしてくれるかよ。いい加減にしろ」
店員「誤解があるみたいですね。実際はこういった形でサービスされます」
メイド「ご主人さま、私がお留守番いたします」
客「留守電サービス追加で」

生活指導

 孝夫は生活指導室に呼び出されていた。
「なんでここに呼ばれたか分かるか」
「わかりません」
「校則で片思い禁止なのに破ってるだろ」
「そんなことないですよ」
「嘘をつくな。ここに調査済みのお前の片思いリストがあるぞ。まず前田美香。確かにクラス1の人気だ。それに石塚沙耶。これもまあクラストップ5に入るだろ。問題は渡辺真紀だな。なんでリストに入ってるんだ。優しくされたのか」
「それは、教科書忘れたときに一緒に見せてもらったんです」
「かーっ、しょうもない理由だなあ。それに遠藤美晴に高島明美中川美優は同じテニス部だな。どれか絞ることもできないのか」
「シチュエーションで使い分けてるんです」
「なんのシチュエーションだよ。それに葛西真由美って知らない名前だな」
「同じクラスの葛西君の家族です」
「ああ、妹さんか」
「お母さんです」
「妹はだめなのか」
「ありっちゃありです」
「もうどうしようもないな」
「前から気になってたんですが、何で片思い禁止なんですか」
「学生は勉学が本業だ。風紀が乱れる」
「両思いはどうなんですか」
「それはまったく問題ない」
 生活指導は少し間を空けてから語った。
「いずれにせよ、明日までに片思いはせめて半分に減らせ。わかったな」
「わかりました」
 うつむいて生活指導室を出る孝夫を、教師は熱いまなざしで見ていた。
「理事長、見ていますか。俺を超えるとんでもない化け物が出てきたようですぜ」

再会

 孝夫はある日、一本の電話を受け取った。相手は、片思いだった同級生の昌子だった。久しぶりの電話に話が弾み、二人は会うことになった。昌子は中学の頃の面影はなく、すっかり大人の女性になっていた。
「孝夫君、そんなことあったの覚えてないでしょ」
「全然覚えてなかったよ。そっかーオレ陸上部でエースだったのか。バレー部だと思ってたよ」
「うふふ、違うわよ。陸上部」
 孝夫がすっかり忘れていた事を次々と話し出す昌子。
「実は孝夫君のこと、あの頃から好きだったの」
「あの頃からって……」
 孝夫は動揺した。少しの沈黙のあと、昌子はうつむいた。
「ううん、でも今、私は借金抱えてるから、孝夫君にふさわしい女性にはなれないわ」
「そんなこと言うなよ。オレに出来ることなら何でもするよ。そして一緒になろう」
「ホント? 嬉しいわ」
 孝夫が振り込め詐欺の被害届を出したのは、それから三ヶ月後の事だった。

待ち伏せ

 孝夫は昌子から好意を寄せられている事は気付いていた。しかし、孝夫はそれを気付かないふりをしていた。孝夫は他に好きな女性がいるし、そのうちほとぼりが冷めると思っていたからだ。
 しかし、昌子の思いは変わらず、それが孝夫にとって重いと感じるようになっていた。
 ある日、孝夫が自宅へ帰ると、玄関前に昌子がいた。昌子は孝夫に気付くと微笑んだ。孝夫は言う。
「そういうの、重いんだよ」
「なんで」
「肩に、のしかかってくるんだよ。もうオレに関わらないでくれ」
「私じゃダメなの?」
「ダメだよ。お願いだから成仏してください」

勘違い

 孝夫はある日、一本の電話を受け取った。片思いだった同級生の昌子からで、彼女はまだ結婚していないという。話は思いの外弾み、二人で食事をすることになった。
「でも孝夫君すごいのね。今やIT企業の社長さんなんて」
 孝夫は気付いた。たぶん彼女は同級生で、すっかり金持ちになった隆史と自分を勘違いしているのだと。そうでなければ彼女からアプローチが来るわけもない。
「ごめん、僕はそういう人じゃないんだ」
「もう謙遜しちゃって」
 昌子が微笑む。食事の会話が進んだので、終電間際になってしまった。
「すっかり遅くなっちゃった。もうこのままどこかに泊まっていかない?」
「えっ」
「電車がないの」
「電車がないのか」
 その日、孝夫は昌子に一本抜いてもらった。