クエの鳴く夜は恐ろしい

爆笑問題カーボーイ向けに投稿したショートショートショートを公開します

勘違い

 孝夫はある日、一本の電話を受け取った。片思いだった同級生の昌子からで、彼女はまだ結婚していないという。話は思いの外弾み、二人で食事をすることになった。
「でも孝夫君すごいのね。今やIT企業の社長さんなんて」
 孝夫は気付いた。たぶん彼女は同級生で、すっかり金持ちになった隆史と自分を勘違いしているのだと。そうでなければ彼女からアプローチが来るわけもない。
「ごめん、僕はそういう人じゃないんだ」
「もう謙遜しちゃって」
 昌子が微笑む。食事の会話が進んだので、終電間際になってしまった。
「すっかり遅くなっちゃった。もうこのままどこかに泊まっていかない?」
「えっ」
「電車がないの」
「電車がないのか」
 その日、孝夫は昌子に一本抜いてもらった。