ガラケー
「ねえ、お父さんいつになったらガラケー止めるの?」
娘の麻衣がイライラした口調で母に訊いた。
「でもパパはスマホ使いこなせないでしょ。あれでいいのよ」
「いいわけないじゃない。第一古くさいのよ」
新聞を読みながら側で聞いていた孝夫が入ってきた。
「麻衣、そんな事いうもんじゃないぞ。情報は新聞とテレビがあれば事足りるし、通勤中はラジオも聞いてるんだ。電話ってのはな、通話するときに使えればいいんだ」
「そうじゃなくって」
「これでメールも、ホームページだってみられるんだぞ。もっとも、昔それやり過ぎてパケ死なんてしちゃったな。知ってるか? パケット超過ですごい料金が加算されるんだ。ハハハ」
「もうそういうこと言ってるんじゃないの。とにかく、9月1日までにはガラケー止めてよね。そうしないと大変なことになるんだから」
そう言い残すと、麻衣は友達との待ち合わせがあるらしく、家を出てしまった。
「まったく、麻衣も友達との見栄があるんだな。ウチのパパはガラケー使ってます、なんて言いたくないのかい」
「若い子の考えることなんて分からないわよ」
「9月までってのもクラスの友達に会うからだろうな」
とはいえ、麻衣の言葉が気に掛かった孝夫は、携帯会社に電話をした。ひょっとしたらサービスが終了するかも知れないと思ったからだ。
しかし問い合わせてもサービス終了の話などはなかった。引き続き同様のサービスを続けます、今後ともご愛顧よろしくお願いしますということだった。
こうして9月1日を迎えた。携帯電話はいつものように使える事を確認した孝夫は、駅に向かった。
駅構内に着くと、何かおかしい。乗客や駅員が不審そうにこちらを見ている。自身はいつもと同じ身なりでいるはずだが、麻衣の言葉が心に引っかかるからそう感じているだけなのか。
定刻通りに通勤列車が到着すると、孝夫はそれに乗り込もうとした。すると、屈強な駅員二人がが孝夫を取り押さえた。
「ちょっと君たち、何をするんだね」
駅員は孝夫を睨み付けた。
「ご乗車はご遠慮願います」
「君たち、失礼じゃないか。私が何をしたって言うんだ」
「ガラケー、使ってますね」
「そうだが、それがどうした」
「当駅ではパケコミ乗車はご遠慮いただいております」