クエの鳴く夜は恐ろしい

爆笑問題カーボーイ向けに投稿したショートショートショートを公開します

FMのDJ

DJ 「(笑い声)はぁ~面白い。あら、もうこんな時間になっちゃいました。最後になりますが、川島さんから告知がありましたらどうぞ」
孝夫「はい、11月21日に荻窪でライブがあります。よろしかったら見に来てください」
DJ 「わっっかりました~。本日は楽しいひと時をありがとうございました。アレン友子の『feel the Sunday』。本日のスペシャルゲスト、川島孝夫さんでした」

孝夫「……あ゛~~~~」
DJ 「ど、どうしました?」
孝夫「やったね?『わっかりましたー』ってやつ。どーっでもいい人の告知をされたときに出てくるやつじゃんよぉ。俺にそれをされたらたまらんよぉ~」

DJ 「(慌てて)いえっ、そういう意図は全くないんですよ」
孝夫「……そうなの?」
DJ 「そうですよ。もう、川島さん繊細すぎです!(笑)」
孝夫「あははは、そうかあ。ごめんねぇ」
DJ 「いえいえ。こちらこそ失礼しました。ではお口直しということで、もう一度告知をお願いして終わりにしましょうか」
孝夫「はい、荻窪でライブがあります。よろしかったら見に来てください」
DJ 「はい、ありがとうございます。ライブ楽しみですね……あっ、日程が伝わってませんでしたね? いつ開催ですか?」
孝夫「11月21日です」
DJ 「わっかりました~」
孝夫「あ゛~~~~」

小悪魔

 通学途中でいつも見かける美少女を好きになってしまった。
 むさくるしい男子校に通う僕にとって、黒い髪をなびかせて自転車に乗るその姿は、まるで天使のような存在だった。
 日に日に思いは強くなり、彼女を見かけるようになって三ヶ月、ついに僕は駅の駐輪場にいる彼女に声を掛けた。
 この日のために僕は手紙を手に持っていた。
「すみません。いつもこちらで通学されていますよね」
「そうだけど、何?」
 初めて彼女の声を聞いた。思っていたよりも大人びた印象だった。
「うまく言葉にできる自信がないので、手紙を書いてきました。これ、受け取ってください」
「あら、ラブレターなんて随分古風なことするのね。でもそういうの、悪くない」
 彼女は不敵な笑みを浮かべた。
「僕は孝夫って言いいます。あなたのお名前を教えてくれませんか」
「フッ、私があなたにそんなこと伝える必要ある?」
 僕は彼女に完全に翻弄されていた。通学路で見つけた天使は、今は小悪魔のような存在に見えた。
「すみません。それではせめて年齢だけでも教えてくれませんか」
 緊張が走る。彼女は少しの間をおいて答えた。
「10万16歳」
「悪魔じゃねえか」

バス旅

「私って、いつも告られる方だから、片思いの気持ちって分からなくって」
「わかる。私も告られる方だから片思いって何? って感じ」
「えー、そうなの。片思いって、すごく素敵な気持ちだと思うの。一度はしてみたいわ」
「わかる。愛されるよりも愛したい、マジで」
「あら、そろそろ到着するわよ。この二日間、一緒になれて楽しかったわ」
「こちらこそ。楽しかったわ。なんか初対面って感じじゃなかったわ」

「えー、皆様バスでの長旅お疲れ様でした。今回ご参加いただきましたおひとり様参加限定ツアー、いかがでしたでしょうか。またのご参加を心よりお待ちいたしております」

現世

「なんか麻衣って俺に気があるんじゃね?」
「ふざけんな。学年で一番人気の麻衣がお前に気があるわけないだろ」
「ちょうどあそこに麻衣がいるから告ってくるわ」
「やめとけって」

「おい、麻衣に告白したら、付き合ってもいいよって言って貰ったぞ」
「嘘つくな。お前が相手にされるわけないだろ」
「マジだって。告白したら、付き合ってもいいけど、俺と現世で付き合う気はないからから生まれ変わってからならいいよって」
「フラれてるじゃねえか」

廃屋

女  「ここの廃屋入るのこわーい」
男  「大丈夫だよ。怖くないって」
女  「うわー、入ると薄気味悪いよ」
男  「大丈夫だって」
謎の声「ウゥー……」
女  「ちょっと、なんか聞こえてこない?」
男  「気のせいだよ。聞こえないよ」
謎の声「ウゥー……」
女  「やっぱりうなり声が聞こえるよ」
男  「そうかな。近所の声じゃないの」
謎の声「デテイケ……」
女  「なんか、出て行けって言ってない?」
男  「どこか近所の人が出て行けっていってるんだよ」
謎の声「コノ廃屋カラデテイケ……」
女  「ちょっと、この廃屋から出て行けって言ってない?」
男  「そう? でも俺たちに言ってるわけじゃないでしょ」
謎の声「オマエタチフタリ、コノ廃屋カラデテイケ……」
女  「ちょっとお、お前たち二人この廃屋から出て行けって言ってるよ」
男  「でもお前たちって言ったって、俺たちの事じゃないかも知れないじゃん」
謎の声「シロイシャツヲ着タ男ト、青イワンピースヲ着タ女、コノ廃屋カラデテイケ……」
女  「ちょっとお、白いシャツ着た男と青いワンピースを着た女に出て行けって言ってるよ。これ私たちのことじゃん」
男  「そうかなあ。いまどきそんな格好した奴なんてどこにでもいるよ。その辺のダサいカップルでもやってるよ」
謎の声「シロイシャツヲ着タ、イケメント、青イワンピースヲ着タ、キラキラ女子、コノ廃屋カラデテイケ……」
女  「ちょっとお、イケメンとキラキラ女子って言ってるよ。これ私たちの事じゃないの」
男  「あれ、そうかな。なんかこの廃屋、ヤバくね?」
謎の声「いいから早く出て行け!」

試合

ピッチャー「どうしよう、明日大切な試合だっていうのにこんな怪我しちゃって」
監督   「どうしたんだ」
ピッチャー「監督、右腕を怪我してしまいまして、明日の試合が無理そうなんです」
監督   「なんだって。困ったな、野球部でピッチャーできるのはお前だけなんだぞ」
ピッチャー「すみません」
監督   「しかたない。サッカー部の浅井に頼もう」
ピッチャー「切り替えメチャクチャ早くないですか」
監督   「バレー部の西野もいいな。それともバスケ部の石川はどうだ。あいつ、なかなかストレート速いからな」
ピッチャー「ちょっと! そんなに候補いるのおかしくないですか」
監督   「何言ってるんだ、みんなお前よりマシだろ」
ピッチャー「なんて事言うんですか。さっきの発言、撤回します。怪我しましたが試合には出ます」
監督   「やめなさい。その腕では無理だ」
ピッチャー「右腕がダメなら左腕で投げます」
監督   「そんなことできるのか」
ピッチャー「やってみせますよ。ボール受け取ってみてください。……あっ、こりゃノーコンだ」
監督   「なんだいつもと一緒じゃないか。明日の試合出てもいいぞ」

宇宙船

見浦   「ようやくこの宇宙船も軌道に乗り地球に到達できそうですね」
キャプテン「うむ、いろいろトラブルもあったが、みんな、よくやった」
見浦   「ただ、酸素発生装置が故障しているため、酸素は予備分しかありません」
キャプテン「残念ながらそうだ。地球にたどり着くには二人分の酸素しかないんだ。私はキャプテンとしてこの船を守らなければならないし、見浦は船のメンテナンスで必要だ。おい、田島」
田島   「はい」
キャプテン「分かってるな。お前の酸素はない」
田島   「ええ~、そんなの嫌ですよ。酸素がなかったら息苦しいじゃないですか」
キャプテン「息苦しいとかそういう話じゃないんだが、ここはひとつ我慢してくれ」
田島   「どれくらい酸素がない状態が続くんですか」
キャプテン「三日間だ。我慢してくれ」
田島   「じゃあ地球着いたらステーキおごってくださいよ」
キャプテン「ステーキとかそういう問題じゃないんだが、おごってやろう」
田島   「じゃあやります」
見浦   「キャプテン! 酸素発生装置がなぜか復旧しました! 全員無事で地球へ帰れます」
キャプテン「なんだと。でもすぐその装置は止めろ」
見浦   「なぜですか」
キャプテン「田島が無事に地球に着いたら、ステーキをおごらなければ、ならないからな」
田島   「ちょっと、キャプテンきついよお」
キャプテン「イッツ、アメリカンジョーク!」
三人   「ワッハッハッハッハ!」